法令データ検索日誌

法令や例規(条例等)のマイナーな話題のログ

公務員の残業代(超過勤務手当)は予算がなかったら支給しなくてよいのか

公務員の残業代(超過勤務手当・残業手当)は予算がなかったら支給しなくてよい、という噂があるようです。

不思議ですね。国家公務員なら一般職の職員の給与に関する法律、地方公務員なら各団体の給与条例に基づき、超過した時間分の手当が支払われることになっていますよね。地方公務員の場合は、労働基準法地方公務員法第58条で適用除外される規定を除き適用されます。*1

どこに、予算がなかったら支給しない、なんて規定があるのでしょう。法令に基づいて事務を行うことが矜持の公務員が、なぜ自らに適用される法令を無視するのか。

Twitterを見てると、国でも地方でも真面目にそんなことを信じている方々もおられてちょっとひいてましたが、法令に規定がある以上、勤務した分を支給しないのは不正・違法なことであり、現に国家公務員については、河野太郎大臣がスパッと切り込んだのはご存知のとおり。

国家公務員の残業代「全額支払う」 河野規制改革相: 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE224R00S1A120C2000000/

河野太郎規制改革相は22日の記者会見で、国家公務員の超過勤務手当に関し「残業時間はテレワークを含めて厳密に全部付け、残業手当を全額支払う」と語った。麻生太郎財務相の理解を得たと説明した。「不正があれば私に言ってほしい。『やらない、やらせない、見逃さない』を徹底したい」とも強調した。

 大変心強い。今まではなんだったんでしょうね。

では地方公務員の場合はどうか。自治体の場合は各自治体が給与条例に基づき残業代(残業手当・超過勤務手当など呼び方は自治体によります)を支給してるわけですが、当然、残業してるのに残業代を支払わないサービス残業は違法です。裁判例もあります。

労働基準判例検索-全情報

争点 : 都の教育事務所職員が、超過勤務手当が一部しか支払われなかったとして支払を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 :  都の教育事務所職員が、超過勤務を行ったにもかかわらず超過勤務手当が一部しか支払われなかったとして、支払を求めた事案の控訴審である。  第一審東京地裁は、労働基準法37条に基づいて時間外手当請求権の発生を認めつつ、消滅時効が完成している期間があったとして時効の及ばない期間につき手当支給を認めた。これに対して職員が控訴、都も附帯控訴。  第二審東京高裁は、概ね原審の判断を踏襲し、職員は、現に正規の勤務時間内に完了できない業務を与えられ、そのために時間外や休日に業務を行っていたこと、時間外の勤務は公務の円滑な遂行に必要な行為であり、かつ、行わなければ繁忙時の公務が渋滞するなどの支障が生じていたこと、管理課長は超過勤務の事実を常日頃から現認し、不定期ではあるけれども業務の報告を受け、超過勤務の実績を知悉した上で職員の超過勤務を容認していたことなどを認定した。その上で、正規の勤務時間を超えてした勤務は、当該勤務を行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたものであって、使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができ、かつ、当該勤務に要した時間は社会通念上必要と認められるものであったということができるとして原審判断を支持し、都側の控訴及び職員の附帯控訴ともに棄却した。

そしてまた、「仕事が終わらないからって上長の命令がないのに残業するのは残業として認められない」という人もいるみたいですが、そんなことはないのはこの裁判例のとおり。また、判決理由を読むと、

管理課長及び庶務係給与担当者は、超過勤務の実績に見合うだけの予算措置が講じられていなかったため、超過勤務手当を抑制するため、補助簿記載の各超過勤務について、補助簿記載の超過勤務時間数の一定割合のみを命令簿に転記させ、

とあり、やはり予算措置がないことは残業代を支給しない理由にはならなかったのです。

ほかにも、インターネットにあるものだけでも自治体の残業代未払いの事例はあります。

二宮町 残業代未払いを是正 町長が謝罪 過去2年分支給へ| 大磯・二宮・中井 | タウンニュース

https://www.townnews.co.jp/0606/2018/09/28/450510.html

 二宮町が職員の時間外勤務に上限を設け、年間240時間を超えた分の時間外手当を支払っていなかった問題が明らかになったことで、村田邦子町長は9月18日に会見を開いて謝罪した。職員給与に関する条例では時間外に勤務した全ての時間に対して手当を支給すると定めているが、条例に反する「慣例」は少なくとも30年以上前から続いていたとみられる。町は労働基準法の規定に基づき、2016年度と17年度の過去2年分の未支給額3990万円を払う。

一転、割増賃金支払いへ 市職員の振休不適切運用問題 監査委員4年前に指摘 | 丹波新聞
https://tanba.jp/2020/02/%E4%B8%80%E8%BB%A2%E3%80%81%E5%89%B2%E5%A2%97%E8%B3%83%E9%87%91%E6%94%AF%E6%89%95%E3%81%84%E3%81%B8%E3%80%80%E5%B8%82%E8%81%B7%E5%93%A1%E3%81%AE%E6%8C%AF%E4%BC%91%E4%B8%8D%E9%81%A9%E5%88%87%E9%81%8B/
 兵庫県丹波篠山市職員の振替休日(以下、振休)の不適切な運用が常態化していた問題で、同市は過去2年間の勤務実態を調査し、規定期間を超えて振休を取得できていない職員に対し、割増賃金を支払う方向で検討していることが分かった。また、同市の監査委員が4年前の定期監査で問題に気づき、是正を求める指摘を行っていたことも判明。市総務課は、「今後は労使ともに制度をしっかり理解し、より適正な運用に努めていく」とした。

 振休は、あらかじめ休日だった日(時間)を「労働日」に切り替え、ほかの労働日を休日にするもの。このため日曜日に働いたとしても、「休日労働」にはならず、割増賃金は発生しない。
 一方、よく似た制度として代休があるが、こちらは突発的に休日に働くことになり、代わりに以降の労働日の中で休みを取る。もともと休日だった日に働いているため休日労働となり、割増賃金が支払われることになる。
 ただし、労働基準法では、振休であっても働いた日の週のうちに休日が取得できない場合、法定労働時間を超える勤務があったことになるため、週をまたがる振休は割増賃金の対象となる。

市職員16人に残業代未払い、100万円超も 職員逮捕きっかけで発覚、京都市長に初の是正勧告|社会|地域のニュース|京都新聞
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/375396

京都市人事委員会が門川大作市長に対し、市京セラ美術館(左京区)改築工事を担当した職員16人の時間外勤務手当(残業代)未払いなどが労働基準法に違反すると是正を勧告していたことが6日、分かった。関係者によると、職員の中には100万円以上の支払い不足があったといい、市が詳細を調査している。市人事委が京都市長に是正勧告を出すのは初めて。

 同委によると、勧告は9月8日付。5月に再オープンした市美術館の改築に関連し、昨年8月~今年1月の半年間、同館職員16人に対し、時間外労働と休日労働にかかる残業代の支払い不足があった。さらに、うち7人は月100時間未満などとする時間外勤務に関する労使協定を破り、違法に働かせていたという。

沖縄県がコロナ残業代未払い 業務急増で手当3億円不足 [沖縄はいま]:朝日新聞デジタル
https://digital.asahi.com/articles/ASNBQ5SRRNBQUEHF002.html

新型コロナウイルスに対応する県職員に長時間勤務が相次ぎ、時間外勤務(残業)手当の予算が不足して未払いが発生していることが21日、分かった。該当する職員は数百人規模とみられ、県は6月以降の残業代を支払えていない。4月から受け取っていない職員もいる。職員からは「今後、支払いはあるのか」など不安の声が上がっている。コロナ対応の中核を担う県保健医療部は本年度、残業手当を1億2574万円計上しているが、3億円程度の不足を見込んでいる。

 公営企業職員については労基署が監督してるので、もっと頻繁に是正勧告を目にする気がします。

都水道局、残業代未払い 労基署が是正勧告:時事ドットコム
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021021501023&g=eco

東京都水道局が一部の職員への残業代が未払いだったとして、新宿労働基準監督署(新宿区)から是正勧告を受けていたことが15日、分かった。同局は3000人以上いる全職員を対象に実態調査する方針だ。

伊賀市上下水道部に是正勧告 労基署、時間外労働などで3度 /三重 | 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20210223/ddl/k24/010/197000c

伊賀市は22日、市議会定例会一般質問への答弁で、2017年4月から20年6月までに3度、上下水道部が上下水道部に関する協定を超えて職員に時間外労働を行わせていたなど延べ25項目で伊賀労働基準監督署から是正勧告を受けていたことを認めた。

*1:ただし、 地方公務員法第58条第5項により、企業職員や単純労務職員以外の一般職について、職員の勤務条件に関する労働基準監督機関の職権は人事委員会か首長が行うことになっているため、労基署の監督を望めません。自分で自分を監督できるわけないんだから、この適用除外は外すべきじゃないですかね。