法令データ検索日誌(2)

法令や例規(条例等)のマイナーな話題のログ。

法制執務に適したソフトはWordか一太郎か

続出する法案のミスに関して、その原因がかの国産ワープロソフト「一太郎」を使わせるせいではないか、という分析がありました。

法案ミス、不慣れなワープロソフト原因か 議員が指摘「若手職員には『一太郎』の経験少ない人も」|社会|地域のニュース|京都新聞
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/541271

長きにわたるWord派と一太郎派の抗争。20世紀においては意識の高い一太郎派が次々に出るバージョンアップ版を買い続けてましたが*1、現在は一太郎を使うのはごく一部で、ほとんどの人はWordでしょう。中には、OpenOffice(LibraOffice)という勢力もありますけども。

連日くそ忙しくててんぱってる最中、朦朧と慣れないソフトを使っていれば、操作ミスをするのは至極当然だと思います。

ではなぜ一太郎を使わせられるのか?

記事によれば

政府提出法案などを審査する立場の内閣法制局の担当者は、文書は縦書きで1行48字、1ページ13行詰めといった書式が確立していると説明

とのことですが、その程度の書式設定はWordでもできるだろうに、誰も検証してないのかなあ? 

それとも法案自体は単純な書式だけど、縦書きの新旧対照表のレイアウトが厄介で一太郎を使わざるをえないのかなー?

そう考えていくと、そもそも、すでに行政文書は横書き、法令のデータベースも横書き表示が当たり前なのに、法令関係だけ縦書きにこだわることが、諸悪の根源ではないでしょうか。

今回の法令関係のミスに関しても一旦横書きで作った資料を縦書きの一太郎にコピペした際に間違えた、というのをどこかで見た気がします。

法令のデータベースもたいがい、新旧対照表の形でおそらくRTF形式のデータを出力できるんですけど、横書きならできても縦書きのレイアウトで出力するのは無理なんですよ多分。

だからシステムで完結できず手作業のコピペや修正を余儀なくされ、その過程でミスが出る。

つまり、一太郎だろうがWordだろうが、法令を横書き化しない限り、手作業によるミスを減らすといっても早い段階で頭打ちになるんじゃないかと思うんですよねー

まあ、人を沢山採用して余裕を持って手作業にあたってもらえるなら、その限りではないと思いますけども。

 

 

 

*1:更にはOASYS派もいましたが。

『官僚の劣化? 相次ぐ法案ミス | NHKニュース』に関して

この記事に関して思ったことです。

WEB特集 官僚の劣化? 相次ぐ法案ミス | NHKニュース
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210607/k10013071421000.html

 まあ劣化とか言われてるけど一番は組織の弱体化ですよ。単純に人手不足。

チームはみな対応に駆り出され、法案作りに集中する時間が取れなくなり、休日出勤して作業に当たったという。

そうした、ある1日のスケジュールを教えてもらった。 

8:00 チーム集合 原稿などの資料を印刷
9:00 印刷した資料を審査のため内閣法制局に持って行く 別の原稿の「読み合わせ」 誤りがないか確認
13:00 内閣法制局から呼び出し 修正点などの指摘を聞き取る
13:30 内閣法制局の担当者と議論
16:00 庁舎に戻って内容を修正
22:00 内閣法制局に修正した原稿などを提出「読み合わせ」で誤りがないか確認 翌日の作業準備
2:00 帰宅

こういう戦況になったことがすでに戦略的失敗。みんな8時に帰れるくらいに当たり前に人を増やせば元が強い人達ばかりなんだから自然と勝てるのに。

それを小手先の戦術で挽回できるのかどうか。

まそれはそれとして小手先のことを考えてみると・・・

まず気になったのは資料の印刷時間。
「1時間もかかっている」

Aさんによると、原稿などの資料は、急いで内閣法制局に届けなければならない。少しでも早く審査に入ってもらうためだ。

この日は600ページに及ぶ資料を印刷するのに1時間かかり、一番の若手が資料を抱えて走っていった。

何人分か刷るから時間かかるんですかね。

ところで、法案関係の資料はA4に大きな文字で書かれてる上に片面印刷だと枚数がめっちゃ多くて、印刷に時間と費用がかかるし、分厚くて綴るのは手間だし置いとくにも嵩張るし、何より自分が読む気が萎えるので、私は量が多いやつは新旧も案文もA3 8up 両面で印刷することが多いです。せめてA4 2up かな。

法案の資料って、A4にすごいでかい字で書かれてて1ページにちょっとしか内容が無いので、それをあちこちめくって読むのと、A3で何ページ分かを見渡すのでは、頭への入りやすさも違うと思うんですよねー

次に気になったのは、原稿の「読み合わせ」の時間。
「4時間もかかるって?!」

読み合わせは、資料に誤字などのミスがないかチェックするため2人1組で行うという。

1人が原稿を読み上げ、もう1人がそれを聞いて、漢字や送りがな、改行などに誤りがないかを確認する。

たとえば、「A及びB(Cを除く。)」この文をどう読むのかというと…。

「カギ A キュウビ B カッコ C ヲ ジョク マル カッコトジ カギトジ」となる。

なんだか呪文みたいだが、聞く側が漢字の送りがななどを判別できるように、音読みの漢字は訓読みで、訓読みの漢字は音読みという「霞が関ルール」があるという。

読み合せは実際必要だと思うんですよねー、自分の頭で考えるだけでは無理がある。

プログラミングでいうコードレビューというかペアプログラミングに近いのかな、どっちもやったことないけど。法令はプログラムと違ってテスト環境で機械に実行させて検証するってことができないから人力で精度を上げるしかない。

単純な誤字・脱字なら文書のチェックが可能だと思います。私はそういうチェックが好きで、前職では、誤字脱字をを集めては例規システムの精査機能に追加してました。例規集は誤字や改正漏れがたくさんあっておもしろかったです。ま、世の人達はエレガントな機能を作りたいのであって、そういう愚直なのはやりたくないみたいですが。

あとチェックするのもどうせならWordなりの中で動作するのでなければ効率が悪いと思います、どうせWordを直さねばならないのですから。別のツールと行ったり来たりしてると直す時にまた入力ミスが出るでしょう。

ただ法令の誤りで恐ろしいのは単純な誤りより意味の取り違えとかなんで、これは分かってる人が読んで異和感を見つけるしかないんじゃないかと思います。

それと、読み合せって誰かつかまえてやらなきゃいけないけど、その相手もクソ忙しく別の仕事やってる貴重な人員だと思うんですよ。そうすると相手の拘束時間分はやはり大きなロスになってしまうし、そう思うと読み合わせを頼むこと自体にも躊躇が出てそれがまたミスに繋がったりしそうな気がします。

テキスト読み上げソフトって今はいろいろあるじゃないですか。昔はあんまりなかったけど私は「ドラゴンスピーチ」ってのを買って試しに読み上げさせて、自分の書いた文章の誤字をチェックしてみたことがあります。結構役に立ったんですけど、ネックは辞書登録というか、読み上げソフトは滑らかに読んでくれようとするから、間違い探しをしたいときに読んでほしい読み上げ方をしてくれないんですよね。記号も読んでくれないし。だから当時も、法令でいう「霞が関ルール」的なやつを辞書登録して使ってみたかった。「霞が関ルール」を使えるようにした読み上げソフトがあれば、対人で読み合せする代わりとはいかないだろうけど、ある程度は役に立つかもしれません。

1 案文=改正や追加された部分を文章化したもの
2 要綱=法案の趣旨を要約したもの
3 理由=法案の目的などを記したもの
4 新旧対照表=新旧の条文を並べ、改正や追加された部分を比較する表
5 参照条文=法案に関係するほかの法律の条文一覧

「若手改革チーム」の一員・野崎光寿さん(文部科学省 入省4年目)は「“5点セット”のうち本当に必要なのは4『新旧対照表』だけで、あとの必要性は低い」と話す。

 

1「案文」は、4「新旧対照表」を「改め文」と呼ばれる文章に書き直したものなので4で代用が可能。

そのとおりなので、もう法案を改め文にすること自体やめて、新旧対照表方式で改正したらどうでしょう。

5「参照条文」はほとんど利用されていない。

参照条文て誰が何のために読むんだろうと思ってたら、本当に誰も利用してないんですねー。関連する条文をあたるなら、データベースで見るほうが必要に応じて全文も読めるしリンクであちこち飛べるし余程便利ですよね。

2「要綱」と3「理由」は一つにまとめてわかりやすい「ポンチ絵」にした方がいいというのが、改革チームの主張だ。

 「要綱」と「理由」を一つにまとめたわかりやすい「ポンチ絵」て、それ「概要」ですかね。今も作ってるこういうの

第204回国会(令和3年常会)提出法律案|厚生労働省

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「概要」なら、閣法なら今でもどの省庁でも必ず作ってますし、実際、概要と新旧対照表しか読み解く役に立たないんで、よいと思います。

ただ、今は案文に入ってる「附則」、これは経過措置を見るのに絶対いると思うんで、新旧対照表の後ろにでもつけたらどうでしょうか。そうやって、なし崩し的に新旧対照表方式の法律改正を実現していきましょう😃

 衆議院事務局
「こちらからお願いしているわけではないが、慣行として“5点セット”の形式で提出されている」
参議院事務局
「“5点セット”はこちらで指定しているものではない」
内閣法制局
「“5点セット”という形式は我々では決めていない。内閣官房が定めているのではないか」
内閣官房総務官室
「“5点セット”の法的根拠はなく、慣例でやっている。利便性や見やすさなどの理由で続いているのではないか」

今回はNHKがこの言質をとってきたのが金星じゃないですか。

そうでなければ、このメンツの誰も自分達からは言い出さないでしょうから。